基研研究会
「非自明な電子状態が生み出す超伝導現象の最前線:新たな挑戦と展望」

研究会の趣旨

爆発的な広がりを見せる近年の超伝導研究を結ぶ一つのキーワードとして、「非自明な電子状態」というものが挙げられる。例えば量子計算を実現する舞台の一つとして注目を集めるトポロジカル超伝導体は文字通り超伝導状態がトポロジカルに非自明であるし、近年の微細構造作成技術の進展は非相反効果などバルクにはない数多くの新奇現象の創出をもたらしている。また、「非自明な電子状態」が電子相関効果に起因する多くの非従来型超伝導において重要なキーワードであることは論を俟たない。例えば銅酸化物高温超伝導体の「非自明な電子状態」の研究は、Bednorz とMueller による高温超伝導の発見以来35 年が経過する現在にいたるまで精力的な研究が国内外で続いている。特に近年では、大量の酸素欠損を有する結晶構造を持つ新しいタイプの銅酸化物や、銅酸化物と類似の電子状態を持つ可能性があるニッケル酸化物などの新物質が研究対象として加わり、新しい展開を見せている。非従来型超伝導は鉄系超伝導体や重い電子系、分子性固体などにおいても実現するが、これらの物質群では電荷、スピン、軌道、格子の自由度が複雑に絡み合う。この自由度の高さが強相関効果と絡み合って生み出される「非自明な電子状態」の多彩さは大変興味深く、理論、実験とも研究の進展のスピードが著しく速い。

さらに最近の高圧下水素化合物の超伝導の発見により「非自明な電子状態」がトポロジカル超伝導体や非従来型超伝導体の専売特許ではないことも明らかになっている。BCS 理論に従えば、電子格子相互作用が強く、かつフォノンの振動数が高ければ超伝導転移温度が高くなる。しかしながら通常、電子格子相互作用が強い物質はフォノンの振動数が低く、フォノンの振動数の高い物質は電子格子相互作用が弱い。従来、フォノンを媒介とする超伝導体の超伝導転移温度には越えられない「BCS の壁」と呼ばれる限界がある、とされてきたのはこの事情によるものであるが、フォノンの非調和性が高く、かつ原子核の量子性も強いときには強い電子格子相互作用と高いフォノン振動数が共存する特殊な状況が実現する。このようにフォノンを媒介とする、いわゆる従来型とされる超伝導であっても、通常議論の前提とされる条件が成立しない「非自明な電子状態」のもとでは、BCS の壁はおろか室温すらも越え、摂氏200 度に及ぶhot superconductivity の可能性を考えることができる。

このような背景のもと、非自明な電子状態が生み出す超伝導現象の様々な挑戦課題を議論する機会を持つことは、超伝導の理論研究が今後進むべき道を探る上で絶好の機会となる。また、理論研究者からの発信は、実験研究者にとっても研究を見直す重要な機会となる。そこで、それぞれの分野で世界最先端の研究成果を挙げている第一線の理論研究者を集め、最新の研究成果について討論するとともに、実験研究者の講演も織り交ぜて議論するための研究会を行う。このような研究会を開催することは、超伝導研究の第一線で活躍する研究者はもとより、若い大学院生にとっても大きな刺激になるものと期待できる。研究会は、招待講演者による口頭発表に加え、一般申し込みによる口頭発表とポスター発表を行う。 ただし、新型コロナウイルス感染症の拡大防止策として、開催形式はオンサイト、オンラインのハイブリッドで行う。

日程・開催場所(予定)

発表スライドはできる限り英語でお願いいたします。発表は日本語で結構です。

招待講演者

世話人

有田亮太郎(東大工/理研・代表)、池田浩章(立命館大理工)、大野義章(新潟大理)、黒木和彦(阪大理)、
紺谷浩(名大)、佐藤昌利(京大基研)、遠山貴己(東京理科大理)、松田祐司(京大理)、柳瀬陽一(京大理)